朝の日差しが直接瞼に降り注いで、その熱と光にサンジはんう、と低く呻いた。
 最近、眠れなくてかなり寝不足だった。昨日はとうとう自分の仕事にまで支障をきたしそうで、サンジはあまり強くもないのに寝酒を呷って
いたのだ。
 いや、いたはずなのだ、が。
 ごろ、と寝返りを打つと、何か固い大きなものに顔ごとぶつかって、息が出来ないとサンジは寝惚けた頭でそれを避けるべくやや視線を上に
向ける。
 ――そこには。
 ここ数日、サンジの睡眠をことごとく奪っては頭の中に進入してきていた、日向の匂いのする剣士がすかすかと寝息を立てて眠っていた。
(……んおおぁあ??!)
 心臓が一瞬間違いなく動きを止め、次の瞬間狂ったように血液を行き来させ始める。あっという間に血が昇ってきた頭では碌な事も考 えら
れず、しかし血が巡ったお蔭で漸く覚醒して、サンジはがばっと勢いよく飛び起きた。
「〜〜〜っ!」
 が、途端に頭を抱えて蹲る。
(な、何でゾロ? てか俺昨日……何、して……?!)
 がんがんと、二日酔いの脳髄はリズミカルに不協和音を奏でたてる。と、そこへ、些か不機嫌そうに起き上がったゾロが声を掛けた。
「オイ、てめぇ。俺跳ね飛ばして騒いでんじゃねーよ、まだ早ぇじゃねぇか。」
 くあ、と顔の半分ほどはあろうかというほどの欠伸を一つ。
 と、急に何やら楽しげな表情になると、
「昨日は遅かったんだし、なァ?」
 に、と滅多に見せない笑顔でもって、恐ろしいことを言い放った。
 当然、ベロベロに酔っていたサンジには、ゾロと話した記憶はおろかキッチンを出たことすら憶えてはいない。
「えっ……ぅええ、ええ?!」
 赤くなったり青くなったり、歩行者用信号機のように顔色を変えるサンジを見て、ゾロは喉の奥でくッと笑うと。
 がっしりと、その薄髭の生えた顎を掴んで引き上げた。

 ――掠めるように一瞬の感触。

 瞬時にボワッと真っ赤になったサンジに、最後の爆弾を。
「なかなか善かったぜ、サンジ?」
 早く朝飯作れよ、そう言ってひらり、見張り台から飛び降りる。
 向けられた背は何も教えてはくれなくて。
 遺されてサンジは一人、半ば呆然と呟いた。
「昨日の俺、何したんだ……?」

 彼が真相を知ることになるのは、少なくとも日が高くなってからであろう。
 空腹に忠実な船長の飯コールと、航海士の怒鳴り声が近付いてきていた。



End.