いつも、喧嘩ばかりしている。
「ふざけんじゃねぇクソコック!」
「そりゃこっちの科白だこんの寝腐れ毬藻!!」
「んだコラ!!」
「ぁあ?!やんのか?」
「いー加減にしなさいっ!!」
「何だよナミ。止めんな。」
「ごめんねナミさん、でもコイツが……。」
ナミさんに止められて、船はギリギリのところで損害を免れる。
「全く……なんでいっつも喧嘩ばっかりなのかしら?サンジ君。」
あはは、と笑うしかない。まさか、原因なんて言えない。
いつの間に出て行ったのか、今キッチンにはナミさんと俺、二人きり。
「ま、どーせサンジくんが此処でちょっかい出したとかそんなとこでしょ?」
……ホント、彼女には敵わない。
自分のテリトリーにお茶を楽しんでおられるナミさんを残して(勿論、淹れたのは俺だ)、俺はキッチンからだと死角になってしまう後部甲板 へと向かう。
其処には予想通り、眠れもせずに転がる緑頭。
俺の足音を聞きつけたらしく、不機嫌な顔で睨みあげてきた。
「何だよ。」
気にも留めずに近づけば、険悪な声音で尋ねてくる。
ったく、こっちの気も知らねぇで……。
俺はわざとらしく溜息を零して、喉に引っかかるコトバを無理やり押し出す。
「お前さぁ、俺のこと好きなんじゃなかったっけ?」
目は見れない。俺が見てるのは、ちょっとほつれた腹巻の端。
「俺はお前が好きだし、好きなヤツには触れてたいし、キスとかその先とかしたいし。でも、お前、いっつも触っただけで怒るし。」
言ってて情けない。けど、俺は今、見た目よりずっと余裕が無いんだ。
「なぁ、お前……俺のこと嫌いだろ。違う?」
言った瞬間、物凄い力で頬を殴られた。
完全に気を抜いていた俺は、軽く2メートルは吹っ飛ばされる。
「が、はっ……!」
「ふざけんなっ!!」
頭上から、俺を殴った馬鹿力の声。
「俺はっ……、好きでもねぇ奴の居るとこにわざわざ行かねぇよっ!」
……はい?
「た、ただっ、そんな触りたいとかじゃなくて、……なんつーか……。」
段々、怒鳴るようだった声は尻すぼみになってしまったけど。
うわ、コイツ……やけに可愛いこと言っちゃってません?
どうしちゃったの??俺今すげー嬉しいんですけど?!
「……後ろで、見てたかっただけだし。」
限界。
俺はばッ、と起き上がって、思いっきりゾロに抱きついた。
「ぅをいっ?!サ、サンジ!!」
声裏返ってるぞー、かーわいいなぁもう!
「良かったー、まだ俺のこと好きでいてくれて。」
頭の中ではあんなことやこんなことを考えてても、声だけは口説くときのそれ。
「……殴って、悪かった。」
後ろから見える首筋と耳は真っ赤で、もう引っ付いてても怒られない。
「んーん、俺も……変なこと言って、ごめんね。」
今度からは、もっと話し合おう。もっともっと、お前のこと教えてよ。
「なぁ、ナミ……おやつはぁ〜??」
「もうちょっとだけ待ってなさいって!あ、ホラ、あたしのクッキー食べていいから!」
やっと仲直りできたのね、サンジ君とゾロ。
あんだけ、お互い「アイツが大好きですっ!」ってオーラ出してるのに、本人たちだけが気づいてないなんて。
「手伝うこっちの身にもなってみなさいよ……って、ルフィ!!全部食べて良いなんて言ってないでしょ!」
ごん!
「だってよぉ〜……。俺、もう腹減って腹減って……。」
「そうね。そろそろ、あたしも飽きてきたし。」
いつまでもラブラブさせとくなんて、面白くないし?
「サンジくーん!おやつまだー?」
叫べば、一拍遅れてサンジ君の声。
「はーい!ちょ、ちょっと待っててねナミさ〜んvV」
自分ばっかり嵌ってる気になって、お互い抜け出せなくなっちゃうわよ?
それとも…………もう、とっくに抜けられないのかも、ね。
<fin.>