「――おい。」
「んあ?」

 古ぼけた安宿の一室。狭っ苦しいベッドの上で二人、未だ上がったままの息を整えている。
 不意に呼びかけてきたゾロを見てサンジは、どくりと鼓動を速くした。
 いつもは終わってすぐに閉じられてしまう瞳はなお情欲に紅く濡れ、わずかに覗く舌先は扇情的だ。
「何、まだ足んねェの?」
 俺もう疲れたんだけど、そう言って、どこかぎこちなく目を逸らす。
 向けた背後で、ゾロがクッと喉で笑って、腕を足を、投げ出された身体に絡めてくる。押し付けられた半身は再び硬くなっていて。
「じゃあ、寝てろよ。」
 耳朶を舐め上げて。ぶるりと震えると、ちいさく笑った息が耳にかかって、また一つ、脊椎を痺れるような感覚が走った。
「っ、ぇ、ゾロ…………?」
 まさか突っ込まれるのかと青くなったサンジが、顔だけを無理矢理振り向かせると。
 にやり笑ったゾロが、ちゅ、と軽く唇を合わせて。
「心配すんな。善くしてやっから。」
 掠めた低い声が、先程までの熱の破片をちりりと焦がした。


「お、おい、やめ、ッ!!」
 焦って身を捩るサンジの自身をきゅっと掴むと、ヒッと息を呑む音と共にぴたりと抵抗が止む。ほくそ笑みながらそれをそのまま口内へ導き、両手を拘束したままことさら丁寧に愛撫してやる。片手はそのまま添えて扱きあげ、もう片方は奥窪へと忍ばせる。
「ハ、ぁあ、ァッ……んぅ!」
 しっかり感じてんじゃねぇか。笑みを深くして、張り詰めてきたそこから一旦口を離し、今度は胸の飾りを弄りだす。
「あッ、ァ、ゾロっ、ゃだ……ん、ぁん!」
 真っ赤に上気させた頬に、金糸がぱさぱさとぶつかる音がする。サンジの意識が胸元に囚われた瞬間を逃さずに、ゾロは後ろに宛がっていた指を、十分蕩けたそこへ一気に挿入した。
「ん――、っぅ!!」
 同時に合わせた唇の端から、苦しげな呻きが零れた。気にせずゾロは指を押し進め、性急に一点を探し求めた。
「ふぅううんっっ!!」
「……ココか。」
 ニヤリと笑って目を合わせると、喘ぎ声やら目の潤みやらが恥ずかしいらしく、サンジは真っ赤になって顔を背けてしまった。しかし、埋め込んだ指でピンポイントにぐりぐりと刺激してやると、噛み締めていた唇は呆気なく綻んだ。
「ぃあ、ぁあああッ、はぁっん!!」
 細かく乳首を引っ掻いていた手を下ろして前に持っていき、先端をくにくにと押し潰すようにしてやる。空いた胸には代わりとばかりに唇を這わせ、カリッと甘噛みしてやると、ビクビクと体を仰け反らせて激しく喘いだ。最早恥ずかしいだのと言っている余裕はないらしく、開きっぱなしの口からは唾液が溢れ、拡げられた内壁は熱くゾロの指を締め付けている。
「ぁん、ゾロ、っあ、も、だッめだっ…………んんぁあ!!」
 尿道にくい、と爪を差し込むと、弾けるようにサンジが達した。びくん、びくん、と数度に分けて、とろりとした白濁が滴り落ちる。ゼイゼイと肩で息をするサンジの目の前で、見せ付けるようにそれをぺろりと一舐めすると、カアァと音がしそうなくらいにサンジが全身を朱に染めた。
「さて、と…………。」
 するりと指を引き抜いても、もう反論してくる元気もないのか、ハッと微かに呼気が洩れただけだった。
「今度は、俺、だよな?」
 その言葉に、ぴくんと反応して目を見開く。あからさまに怯えているその様子を満足げに眺めてゾロはまた笑った。先刻の科白は、二人が初めて体を繋げたときにサンジが言ったものと同じだ。
「ゾロ……。」
 見れば、涙目になっている。汗で張り付いた前髪を梳いてやりながらゾロは、そのつやつやとした碧眼を覗き込んだ。
「心配いらねぇ、ッつってんだろ。」
 そして、サンジの上に覆い被さると、
「……ッゾロ!?」
 まだ屹立しているサンジの半身を、一気に自分の後孔へと押し込んだ。
「ぅあっ、なんで……ァ、ハッァ……。」
「サンジ…………。」
 蕩けた瞳が、それでもサンジを真っ直ぐに射抜く。処理もしていなかったそこは先程放ったサンジの液で一杯で、身じろぐとぐちゅりと淫靡な音がした。ゾロはその体勢のまま、いきなり激しく動き出した。
「ッん、は、ハァッ、ぁ、ぞろっ、ゾロ……!」
「ッふ、んん、サン、ジ……。」
 お互い、目線は逸らさないまま。やがてゆるゆると腰を突き上げだしたサンジに合わせるようにして、ゾロは自らの体重を乗せるように、深く深く貪った。
 臨界点はあっという間で、瞼の裏には様々な色の光が舞った。あと一息で手が届く、というところで、ゾロはとどめとばかりに括約筋に力を込めた。
「っく……ぅああ!!」
「……っぁあ、ン!」
 ドクリ、と中でサンジが果てるのを感じ、その熱を感じ、ゾロもまたちいさく声を零して吐き出した。
 視界に舞った金髪に笑みを溢しながら、ゾロは今度こそ沈み込むように眠りに落ちていった。


 パタリ、と隣に落ちた緑の頭を眺めて、サンジは大きく息を吐いた。
 いったい、どうしちゃったんだろう。いつもは俺にしつけえって煩いのに。
 普段からは考えられないようなゾロの姿に、胸が騒いだのもまた事実。視線を合わせたあの時なんて、抱きたいなら抱けばいいとさえ思ったのだ。
 でも、ゾロは自ら俺を受け容れた。
 酸素を求めるようにお互いを求め、奪うように熱を分かち合ってきた。気持ちを伝えるより体を交わすほうが先だったのだ。通じていると分かってはいても、どうしても僅かな不安はこびり付いていた。
 勿論、それは今でも変わらないのだけれど。
 もしかして、ゾロも同じように感じていたのだろうか。そう思うと、口元が綻んだ。何も言わずに、行動で全てを伝えてくるこの男は、まさしくケモノと形容するに相応しく。そんな男のこの行為だ、込められた思いは溢れんばかりにサンジの中へと流れ込んで。
 俺ってば、すっげえ愛されちゃって、うっわぁ……。
 そう思ってしまえばもうどうしようもなく愛しくて、サンジはその後、ゾロが空腹に目覚めるまで、ずっとその寝顔を眺めていたのだった。


<END.>