扉を開けると、そこには待ちかねた3人の姿。
「「「早く〜〜、サンジ! アイス!!」」」
 一斉に同じことをわめき出したルフィたちに向かって、笑顔で一言。
「うるせえと食わせねえぞこのクソ野朗共。」
 すると、喧しくぴいぴいと鳴いていたのが嘘のように、ぴたっと静かになる。思わずサンジは笑いながら、冷蔵庫の鍵を外してどんどんどん、と3つの器を取り出した。
 女性たちのもののような可愛らしい装飾はない代わりに、大きさは2倍ほどもある。
「うっわぁ〜!!」
「待ってました!」
 一斉に飛びつくのを満足気に眺めて煙草に手を伸ばした、その瞬間、
「サンジ、おかわり!」
 ひとしずくも残さず空になった器とともに、必要以上に伸びてきた腕に絡め取られた。
「ぅおあ、っこらルフィ、テメェ!!」
 ぼす、とゴムの弾力でルフィの胸に顔を埋める格好となってしまい、頬をほんのりと染めたサンジが罵声を浴びせる。
「なーあ! も1個、ねえの?」
 屈託なく笑うルフィに思わず脱力しかける。この船長と、何とも気恥ずかしいことに相思相愛の関係となった今だって、こんな過剰気味のスキンシップはクルーの誰彼構わず日常茶飯事なのだ。現に今だって、ウソップもチョッパーも気にも留めずにソルベに夢中になっている。
「……もう、ねえよ。」
 幾らクソ剣士が甘いものを好まないとて、意思の確認くらいはしてやらなければ可哀想だ。特に今日は陽が強い、こんな日にトレーニングに勤しんでいれば、冷たいものが欲しい所だろう。
 何だか無駄にどきどきしてしまった気がして、サンジはがくっと肩を落としつつ答えた。するとルフィは途端に不満顔になって、
「じゃ、サンジ、くれよ。」
「ん? 残念ながら、俺の分なら調理中に食ってもう十分だからねえぞ。」
 思いがけなく真剣な顔になりやがって、チクショウ格好良いじゃねえか、サンジがそんなことを思って再び胸を高鳴らせていると。

「違う、サンジの、じゃなくて、サンジ、だ。」

 そう言ったのと同時に、さっとサンジの顔に覆い被さったルフィが、はむ、と柔らかくサンジの唇を食んだ。
「んくぅっ?! んんっ、うう!!」
 さっ、と真っ赤に顔を染めつつ、傍で食べる二人の手前必死に逃れようとサンジは左右に首を振るが。
「じゃーな、サンジ。ご馳走さん。」
「なあウソップー、またなんかウソップ工場で作ってるのか?」
「おお、それじゃーこれから見せてやるぜ! キャプテン・ウソップ様の夏の新作武器を!!」
 ……特に何もコメントせずに、出て行ってしまった。
「んーっ、っぷはぁ!」
 それでも口内で騒いでいたサンジが、漸く解放されて必死に空気を貪っていると。
「余所見してんな。」
 不機嫌そうなルフィにまた、口付けられる。
 今度は短く、しかしさっきよりも舌の動きは荒々しい。
 ルフィに放されたときには、サンジはもう、がっちり体をホールドする腕がなければ体を支えられないほど、腰が砕けてしまっていた。
 そんなサンジに向かって、ニィ、と口角を上げたルフィが一言。


「まだまだ足りねえ。
 ――サンジ、おかわり。」


 暫く、キッチンの中は、外気よりも暑い状態が続いていた。
 トレーニングを終えたゾロが、ドリンクすら取れずにドアの外でひいひい言っていたのはまぁ、いつもの事と言えるだろうか。


暑中お見舞い申し上げます。
水川 晶@Marionette