キッチンでの、ルフィの「おかわり!」攻撃に、必死に
「お前の分はもうねぇ! 夕飯が欲しかったら今は諦めろ!」
 と言い放って(それでも他の人の何倍も出した後だ)、漸くサンジはゾロの分のソルべを船尾へ持っていくことができた。
「ルフィのヤロー……、ゴムにゃ頭痛くなるとかねえのかな……?」
 ぶつぶつと呟きつつ、トレーニングの切れ間を待っていると。
「おやつか?」
 不意にカウントを止めたゾロが振り返って、汗を拭いつつサンジに声を掛けてきた。
 濡れて透けるシャツに浮き出る筋肉にどきりと胸を騒がせて、ほんのりと顔を染めたサンジは、
「あ、……ぉぅ。」
 モゴモゴと口の中で何事か言いながら、ゾロにグラスの乗ったトレイを差し出す。
 グラスの中のそれを見て、甘いものが苦手なゾロがきゅっと眉を寄せる。
 見越していたサンジはむ、とわざとらしく頬を膨らませて、
「トレーニングの後は、甘いもんが必要だって何度も言ってんだろ? 溶けちまうから早く食え!」
 しかしゾロは何を思ったのか、サンジのほうに腕を伸ばして、
「甘いのはこっちだけでいい。」
 いきなり、その唇に自らのそれを寄せた。
 ぼ、と一気に真っ赤になったサンジは、慌ててその胸に手をついてそれを避ける。
「とーけーるーっつってんだろーが! この色ボケマリモ頭!」
 随分な言い様に、ゾロの表情が喧嘩モードになりかける。
 そんなゾロに向かって、サンジは急に上目遣いになると。
「あ、……悪ぃ。ごめんな、キ、キス、しても、いいぞ……。」
 さっと伸ばされた手を、今度はスタン、と軽く避けると。
「ただーし!」
 そう言って、びしりと人差し指を突きつけて。
「これでもいいなら、な!」
 ぱくり。
 ゾロのためのソルべをひと口、すくい上げて舌に乗せた。
 そのまま飲み込む様子もなく、勝ち誇ったようにゾロを見ている。
 ゾロはハァ、と一つ溜息をついて、
「お前なら、食ってやるよ。」
 噛み付くように、口付けた。
「ふ、くぅ……、っん……。」
 桃の風味がすっかりさっぱり消え去るころ、ゾロは漸くサンジを開放して。
「残りもコレで食わせろよ。」
 に、とタチの悪い顔で笑った瞬間、
「あ、アホおぉーっ!!」
 これ以上ないほど真っ赤で涙目になってしまったサンジの照れ隠しショットに、ドゴンと甲板に沈められたのだった。

「……犬も食わないわね。」
「良いわね、仲良しさんで。」
 甲板で一部始終を見ていた美女二人の呟きなど、本格的に喧嘩を始めた二人には届かなかった。
 その足元では、すっかり溶けて桃のジュースと化したピンクの液体が、船体に合わせてゆらゆらと揺れていた。


暑中お見舞い申し上げます。
水川 晶@Marionette