ラビュー・ラビュー
ちゅく。
「ん……。」
ゾロは鼻にかかったような声を上げた。すぐ横の丸窓からは、夏島を出たばかりの強い日差し。蕩けそうに真っ青な、空。
サンジは昼食の用意の途中で、片手にはおたまを持ったまま。もう一方の手は、ゾロの後頭部を支えている。
「っ、ふ……ぅ……。」
くちゅくちゅ。
あと15分もすれば、驚くべき体内時計(腹時計だが)を有するこの船の船長がキッチンに飛び込んでくるだろう。早く作り終えないと、アイツは材料のまま食べ始めかねない。
頭の片隅にそんなこと達がよぎりはしたが、サンジもゾロも、深くなる口付けを止めることが出来なかった。
「ぉいっ……、サンジ……!」
息の継ぎ目に漸く喋ることが出来たゾロは、真っ赤になった顔でコックを見上げた。
「…………。」
言いたいことは分かっているらしく、サンジも(かなり不服そうだったが)黙ったまま体を離した。
「メシ出来るまで……甲板で寝てっから、俺。」
そういって、口の端から僅か零れた雫を拭い去ると、ゾロはキッチンのドアへと向かった。
その背中に、サンジが声を掛ける。
「メシ、他のヤツより遅くしてやるよ。」
だから、続きはその時な?
またぱっと赤くなったゾロが「何言って……!」と振り向いたときには、サンジはもう調理に戻ってしまっていた。
せっかく落ち着いたのに、またもや熱を持ってしまった頬を擦りながら、ゾロはかちゃりと、甲板への扉を開けた。
――と。
ドタドタドタッ!!
階段の下に転がり落ちた船員が3名。
「てめぇら、またかっ!」
あはははっと誤魔化すように笑っているクルーに、ゾロは怒鳴り声を上げた。
「ウソップもチョッパーも、魔女に付き合わされてんじゃねーよ!!」
戦闘時のような鋭い視線に、ウソップは失神寸前、チョッパーも涙目だ。
「あら。」
ナミは乱れた髪をさっと手櫛で梳くと、悪戯な笑みを浮かべる。
「ちょっとぐらい良いじゃない、幸せのお裾分けよ♪」
「てめぇも毎度毎度……。」
ぴき。と、ゾロの額に青筋が浮く。
今にも抜刀しそうな雰囲気のそこへ、
「メッシーーーー!!」
船長、ルフィ登場。
「んあ?おめぇらこんなとこで何やってんだ?」
不思議そうに横目で見つつも、すでに意識はランチのメニューへと飛んでいるらしく。
「早くこねぇと先喰っちまうぞ!」
宣言して、バタン!とドアの内側へ。
「そうね、私達も急がなきゃ。」
ウソップ、チョッパー、行きましょ。
ナミはぱっと立ち上がると階段を上がる。残された男衆は一瞬ぽかんとして、素直に言われたとおり動く。
「……ってオイ、ナミ!逃げんな!」
一人突っ立っていたゾロも、二人の動きに反応して茫然自失状態脱却。
そこをき、とナミに睨まれる。
「アンタは後でご飯食べれるでしょうけどね、こっちはルフィに食べられちゃうの!」
じゃあね。
そうしてナミは身を翻し、甲板に残るはゾロ一人。
「あいつ、いっつもいっつも……。」
こなしきれないイライラを呟いてみるが、さんさんと降り注ぐ日差しに、いつしか眠気を催して。
結局は、夢の世界へと誘われていった。
「サンジ君。」
壮絶な戦いの場と化した食卓で、ナミは給仕に回るサンジに声を掛けた。
「はぁいっナミすゎん何でしょうっ?」
手は忙しく動かしつつも、目はハートにするという神技を見せつつサンジはその声に応える。
「あんまり、公共の場所でいちゃいちゃしちゃ駄目よ。」
「……はいι」
今日も、船は平和に航行中。
<fin.>