「お邪魔します。」
「はい、いらっしゃい。」
 ぱちりとスイッチを入れると、あまり来たことのないサンジの部屋が明るく目の前に広がった。
 しばらく見ていなかったけれど、整理が行き届いているのは変わらない。物はあるのに殺風景にすら見える部屋できょろきょろするゾロに、何か温かいものをとキッチンに立っていたサンジが戻って来て苦笑した。
「なに、浮気調査でもしてるの?」
 はいココア、と手渡されて、直前のセリフは聞き流すことにした。
「心配しなくても、俺はゾロだけのもんだぜ?」
 黙ったままのゾロのカップを取り上げて、甘く息を吐く口にキスを落とす。軽く口内を舐ってやれば、肩を揺らしたゾロがサンジを睨み上げた。
「……エロ親父。」
「好きだろ? えっちなのがさ。」
 くく、と笑われて、反論する間もなく再び口を塞がれる。悔しくなって舌を絡めたら、倍にして返されて息が上がった。
「っん、は……。」
 クチュ、と音を立てて離れた二人の唇が銀糸で繋がる。それを舐め取って、サンジはゾロの首筋に顔を埋めた。
「ふあ……っ!?」
 久々の刺激に驚いたのか、滅多に聞けないゾロの声が洩れた。それが更に、サンジを煽る。
「どした? 感じちゃった?」
 にっと笑えば、赤く染まった目元がキッと強まって、
「それ外せ、アホ!」
 力の抜けた腕が、それでも勢いをつけて殴りかかってきた。それを避けながら自分の口元を確かめると、確かに嵌めたきり忘れていた作り物の牙が指先に触れた。
 いつもより敏感な反応はこれの所為らしい。
 だが、とサンジは口角を上げた。
「いいじゃねえか、感じたんだろ?」
 ゾロの身体に巻きついた包帯の上から胸の尖りを食むようにしてやると、片腕で抱いた腰がびくびくと跳ねた。
「あ、あ、馬鹿、やめっ……!」
「やめないー。」
 第一、こんな格好のゾロだって悪い。こんなイベントが好きそうには見えないというのに、やけに手が込んでいる。おまけにこれじゃあ、むしろ悪魔に連れ攫われそうだ。
「お前、仮装なんてしなさそうなのにな。」
 サービス? とおどけて聞けば、もう腕を上げることもできずに口だけを必死に動かす。
「だって……っん、ちゃんとしねえと悪魔が来るって姉ちゃんが……ふぁあ!」
 んな。
 今時、それをこの年のガキが信じるか?!
 思わず手が止まったサンジの顔に手を伸ばして、ゾロが囁いた。
「はぁ……どした……? サンジ……?」

 解けかけた包帯、潤んだ瞳、真っ赤な頬、そして下方で息づいた自身。
 とどめとばかりの艶を孕んだ声に、サンジの理性の糸がギリギリと焼き切れていく音がした。
 唐突にゾロの性器を掴み、ぬめる先端を扱きあげる。同時に後ろにするりと指を這わすと、一瞬息を飲んだゾロが悲鳴にも似た声を上げた。
「ひ、ゃあぁぁっ! あんっ、な、なにっ……、おい、サンジッ!」
「悪いのはお前だ……!」
 くぷ、と人差し指を滑り込ませると、びくっと身体を強張らせて、ゾロがサンジの肩に縋りついた。
「は、ぁ、や……!」
 ここしばらく会えなかったことも相まって、その仕種はサンジの下半身を直撃した。
「クソッ……! テメエ……!」
 動かし続けていた前の手をもっと激しくすると、ゾロの声が一層大きくなった。
「ア……や、もぅ、イク……!」
 その言葉に慌てて手を離すと、寸止めされたゾロが涙目でサンジを見上げた。
「な、んで……? はあ、サンジ、キツッ……。」
「先イくなよ。一緒のがいいだろ……?」
 ほら、と促すと、よっぽど辛かったのか素直に腰を上げる。そこへ身体を潜らせて、勃ち上がった己の上にゾロの入り口をひたりと宛がった。
「いくぞ……。」
 なるべく負担をかけないようにと、ゆっくりと埋め込んでいく。体重を支えるために掴まれた腕に、ゾロがぐっと爪を立てた。
 そんな痛みさえ、今は快感にしかならない。
 時間を掛けて全て収まると、ゾロがほっと息を吐いた。
 途端に自身を締め付けられて、逆にサンジは息を詰めた。
「バッカ野郎、締めんじゃね……!」
 見れば、ゾロの顔は小憎らしい笑みを浮かべている。それならばと軽く腰を揺らすと、びくんと身体を震わせたゾロの身体が崩れそうになった。
 慌てて支えると、中で擦れたのだろう、先程よりも熱い吐息を吐き出したゾロがサンジの頬を軽く摘んで引っ張った。
「アホ、早くしろっ……!」
 それがいつもの年不相応な声ではなくて、切羽詰っているのがよく分かったから。
 それに自分もそろそろ限界だ、と認めて、サンジはゾロの足を自分の肩に乗せた。
「仰せのままに。」
 告げる科白には、ありもしない余裕を滲ませて。
 そこから先は言葉など無く、ただ繋がった場所から零れる淫らな水音と、ゾロの喘ぎだけがサンジの部屋を、聴覚を満たしていった。
「ぁぁあん、サン、サンジッ、ふぁ、もうイ……!」
「っは、俺も、もたねえ……!」
 二人の腹筋に擦られるゾロのソレをきゅっと握って、先走りの溢れる先端にくち、と爪を立てると。
「――――……ッ!!」
 声を抑えようと咄嗟に噛み付いた口の中で、ゾロが強すぎる快楽に悲鳴を上げた。
 搾り取るように蠢くゾロの胎内に、堪えきれずにサンジも精を放つ。
 唇を離すと、さっきよりも粘性の濃い雫が二人を繋いだ。それを舌を出して舐めようとすると、未だ吐精の快感にピクピクと身体を震わせていたゾロが、悪戯な表情になって舌を絡ませてきた。
 驚きつつも、サンジはそれに応える。イったばかりの身体が熱を持たないギリギリのところで、二人はクチュクチュと互いの舌を玩びあった。
「んは、しつっけぇー……。」
 擽ったそうにゾロが笑う。湧いてきた唾液を一旦飲み下して、サンジもゆるりと笑顔になった。
「最初に舌出したのはてめーだろが。どこでんなエロいコト教わってくんだ、ナマイキなガキめ。」
 その質問には「秘密」とにっと笑って、ゾロはサンジの首に腕を回した。
「今日、ダチんとこ泊まってくるって言ってきた。」
「……マジ?」
 びっくりしてゾロの目を覗こうとすると、見られたくないのか抱き込む腕が強くなった。それでも唯一見ることのできる耳朶は真っ赤に染まっていて、サンジはへらっと相好を崩した。
 もう日付も変わった今日は、全ての神に感謝を捧げる日。愛しい人と迎える初めての朝をくれた神になら、祈ってもいいかとサンジは思う。
 腕の中のゾロが、不意にはっとして身じろいだ。
「何でかくしてんだ、馬鹿やろっ……!」
「いいじゃん、もっかい付き合えよ
 明日はせっかくの休日、二人で寝坊は決定だ。
 そう言って楽しげに自分を押し倒すサンジを眺めて、ゾロは仕方がないと小さく小さく溜息をついた。
 それでも。
 この男がこんな顔でいてくれるならそれも悪くないと、結局はその思いに支配されてしまうのだ。


 End. 
長くてすみません……ι