サンジはいい大人、ゾロは中学生か高校生。
曖昧ですみませんが、そんな設定。













 夕空に段々と影が差すと、家々の庭の飾りつけがランプの灯りにきらきらと浮かび上がった。
 あちらこちらから、もう叫び声や笑い声が聞こえてくる。その中を、ゾロは視線を左右に動かしながら走り抜けていた。
 頭がジャック=オ=ランタンの仮装の子供やいやに露出の多い魔女が闊歩する道の上、今日だけはあの綺麗な金髪も目印にはなってくれない。
 夢に浮かれた人々の間を縫うようにして進むうち、ゾロはいつしか町外れにまで出てしまった。
 普段からあまり人の通らない道に、今は本当に人っ子一人いない。
 月に白々と照らし出される青白い地面に、やっと足を止めたゾロがぶるりと身体を震わせた。
「いねえじゃねえかっ……。」
 口を吐いて出た悪態さえ、道の両脇に生えた木々に吸い込まれてしまうようだ。
 引き返そうかと、一歩後ずさった瞬間、

「Trick or treat?」

「っうわ!!」
 耳の後ろから囁かれた自分の名に、ゾロは常にもなく飛び上がった。
 振り返ると、にやにやと自分を見下ろすサンジがそこに立っていた。
 口元からは、ドラキュラを模したのだろう牙が覗いている。
「サンジ!」
「よーう迷子君、Happy halloween ……俺のこと探してたんだろ、俺が追っかけてどうすんだよ。」
「後ろにいたのか?」
「おォ、街からずーっとな。」
 ミイラ男は森にゃ住んでねェだろうよ。そう言って、牙をつけたままで器用に煙草を一本銜えると、かちりとライターで火を点けた。サンジの顔の周りだけが、ほわっと一瞬明るくなる。
 成程自分の今の格好は、こんな場所には全くそぐわない。それでも、とゾロはむっとしてサンジを見上げた。
「お前がどこにもいなかったからじゃねえかっ!」
「だったら声もかけらんねーくらい速く走んじゃねえよ……。」
 ふわりと白煙を吐き出して、呆れたようにサンジが笑った。
 斜めに差す月の灯りが、その笑顔をどこか寂しげに彩る。そんな顔は見ていたくない。お前には似合わないと、そう思った。
「で、お菓子はくれんの?」
 月を振り仰いで、サンジはのんびりと煙を輪にしている。見えなくなった表情を覗き込むこともできない二人の差が、ゾロにはもどかしかった。
「俺が貰う側だろ、普通。」
「俺だってオコサマだもーん。」
 悪戯しちゃうぞ。
 僅かに見せた横顔が、舌を出して笑っていたから。
 漸くゾロは力を抜いて、自分の包帯を手首の端からしゅるりと解いて見せた。
「……何やってんのさ。」
「お菓子の代わり。」
 お返しと、唇を舐めながらわざとらしく上目遣い。サンジの、見えている頬がひくりと引き攣った。
「ガキが言うじゃねえか。」
「自信あるからな。」
「ッ、くそっ……。」
 早く街に戻ろうぜ。
 この夜の魔法が解けないうちに。

「そっちじゃねえ、街はこっちだ!」

 早く、早く。

 

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