倉庫の薄暗がりの中、サンジは後ろからぎゅっと強くゾロを抱きしめる。
「あー……、ゾロの匂い……。」
その声にちいさく反応してしまいつつ、ゾロはいかにもうんざり、といった顔で首だけ振り返った。
「ヘンタイっぽいぞ、それ……。」
するとサンジはわざとらしくむくれてみせる。
「んだよー。恋人の誕生日に、一日中傍に寄っても来ねえ冷たいヤローの所為だろが。俺は皆に祝われる忙しい合間を縫ってまでお前を探したっちゅーに、どこで寝てたんだかは知らねえけど、全っ然見つかんないし。」
その言葉に、ゾロはあからさまな溜め息を吐いてみせる。そしてその仕種に傷付いた顔をするサンジの耳元に、注ぎ込むように囁いてやる。
「一番のプレゼントは、最後のほうが楽しいだろ?」
途端赤くなったその耳に唇を這わせると、吐息を洩らしたサンジが微かに笑った。
「……上等。足の先まで頂いてやるよ、エロ剣豪。覚悟しやがれ。」
ゾロもくく、と笑って返す。
「てめえのプレゼントだからな。好きにしろ。」
常より僅か、余裕のないその手が衣服を剥ぎ取る様が、可笑しくも愛おしかったりするのだ。
ちゅくちゅくと唇を重ねたまま、互いのソレを扱きあう。サンジが空いた片手をゾロの後ろに持っていくと、合わせた唇の端から乱れた呼気を溢したゾロが、口の中で小さく喘いだ。
「……ねぇ。」
一旦離れて、弄りあう手も止めて、尋ねる。自分よりだいぶ息の上がった男は、まだ微かに理性の光る瞳でそれをいぶかしんだ。
「プレゼント、だろ?」
に、と口端を上げてみせれば、何だよ、と少し歪んだ顔。
大方何をされるかさせられるか、予想は付くということだろう。
それならば話は早い。
「解すまではやってやるからさ、お前が上になってよ。」
「……はぁ?」
ぽかん、と間抜けな顔になる。受け入れるにしても拒否するにしても、もうちょっと可愛い反応を期待していたサンジは、かくりと拍子抜けした。
「アンタねぇ……この場面でそーゆー……。」
「俺が突っ込むのか?」
………………フリーズ。
「どこをどー取ったらそういうことになるんだお前はあぁっ!!」
「うるせぇっ! 耳元で叫ぶな! お前が『上になれ』って言ったんじゃねえかっ。」
その中途半端な知識はどこ仕込みだよ……。
サンジははあああと大きな溜息を吐くと、しぶしぶと解説してやった。
「よーはだ……騎乗で動いてくんねぇ? って言ってんの。」
「へ……?」
これでも分からなかったかとサンジが項垂れそうになった瞬間、ボンッと音を立てそうなほどに盛大にゾロが赤面した。
「は、ば、あ、サ、ぉ、……。」
ほとんど言葉になっていない。ぱくぱくと口を開閉するその仕種に、サンジは思わず声を掛けた。
「お、おい、ゾロ……?」
「っい、」
弾かれるように、ゾロが身体を捻り、そして。
「いいぞ。やってやる!」
そして、何かに憑かれたように猛然と、サンジを床に押し倒した。
「……っうわ! ゾ、ゾロ?!」
お前が突っ込むんじゃねえぞお願いだから勘違いすんなよと、釘を刺したいサンジなのだが、如何せん力ではゾロに負ける。圧し掛かってくる身体を押し返すことも出来ず、仕方なく目の前の乳首をべろっと舐め上げると、唐突にがくんと目の前の上半身が落ちてきた。
「っんんぁ!」
「おわぁ!!」
日々の鍛錬で筋肉の付いた胸板は、付いている飾りこそ可愛らしいものの重さが半端ではない。それに潰されて、サンジは思わず悲鳴を上げた。
「わ、悪ぃ……ゾロ、ゾロ?」
いくら呼びかけても返事がない。いぶかしんだサンジはしかし、次の瞬間目を見開いた。
「っく、ぅ……ぐっ……。」
「な?! 泣いてんのか、どうしたんだ?」
サンジはそろそろ、己の言い出したことを後悔し始めていた。
(やっぱ、無理だよなー……。っつうか俺、どっちかってーとゾロとヤれりゃあどーでも良かったのに……。)
サンジとしては、この『ゾロと』ってところがポイントだ。他でもないゾロだから、誕生日にかこつけてこんなお願いをしたりもしたのだから。
もういいよありがと大丈夫か、そう言おうとして、今度こそサンジは固まった。
「ぁ……っ、俺、イっちまっ……!」
……マジかよ。
気が付いてみれば、目の前のゾロの身体は震えてはいても嫌がっている様子はない。ぼろぼろと溢れる涙を舌でぺろりと舐め取って、サンジは優しくゾロを抱き締めた。
「ありがと。やっぱさ、騎乗はまた今度にしよっか?」
その言葉に、不安を感じたのかゾロが顔を上げる。眦にはまた涙が溜まってしまっていて、サンジはそれを親指で掬い取りながら、額同士をくっつけあって言った。
「俺が、お前に色々してあげたくなっちまったの。だから、プレゼント延期していい?」
すると見る見るうちに赤くなりながらも、ゾロは漸く、笑顔になってこう告げた。
「オウ、いつでもいいぞ、サンジ。」
そして二人はそのまま、お互い見つめあったまま、キスをした。
背後で鳴った時計の音は、二人の耳には届かなかった。
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