「「「「「「ハッピーバースディ、サンジ!!!」」」」」」

 ぱぱぱぱん、と景気良くクラッカーが鳴り響いて、クルー達の顔に満面の笑みが咲いた。
 テーブルの上には、ふわりと白い生クリームで飾り付けられた、大きめのエンジェル・ケーキ。銀のアラザンとスライス・ナッツを散らせたそれ は、女性クルーの指導の下に年少組が作り上げた力作だ。
「島が遠いから、あんまり材料減らしちゃいけないと思って。それにこれなら、あいつらでも何とか出来るしね。」
 ナミはそう言い、次いで少し小声になって、ごめんねとサンジに謝った。
「? 何で謝るんですかナミさん。俺とっても嬉しいですよ〜。」
 へらり、気の抜けた顔で、サンジは言葉通りにっこりと笑った。その笑顔に、ナミも少しだけ笑顔になる。
「今日はケーキだけだけど、あと一週間ぐらいで島に着くわ。そしたら、上陸ついでにもう一回お祝いしましょ。」
 あの大食い船長も、今日はちゃんと我慢してることだし。
 そう言ってウインクすると、ナミはメロリンしているサンジを上座に誂えた『お誕生日席』に座らせた。そこでウソップが立ち上がって、
「いよぉ〜し!! 今日は俺様の天才的な活躍により、無事にこうしてケーキも完成し……。」
「サーンジー! 早くお前が食べないと俺食えねえんだ、もう食ったか? 食ったか? なあなあ!」
 ルフィが待ちきれないといったように足をばたつかせて叫ぶ。後ろで「コラー! 俺様のスピーチを聞けぇ!」と騒いでいるウソップもろともナミの鉄拳を喰らい、結局そのまま、ナミが音頭を取る。
「では! サンジくんの誕生日を祝して……、」

「「「「「「「かんぱーーい!!!」」」」」」」

 そして、船上は宴会になだれ込んだ。




 あっという間に夜は更け、途中から今日の主役を放り出して、宴はどんどんと暴走していった。サンジは楽しげにしながらもさり気無くせっせと皿を片付けていき、皆が飲み過ぎ・食べ過ぎ・歌い過ぎ・はしゃぎ過ぎ等で部屋に引き上げていく頃には、あちこちに散乱していた食器の類は、すっかり姿を消していた。
 サンジは控えていた煙草を満足気に吸って、ふーっと白煙を吐き出した。そして、ちらりと甲板の端に目をやる。
 そこには一人、壜から酒を呷るゾロの姿。唯一、サンジにまだプレゼントをくれていない男。
 尤もそれは、数日前に二人で交わした約束があるため、なのだが。
「ゾ〜ロッ。」
 サンジは先刻、ナミに見せたのと同じように、しかし幾分か含みを持った笑顔で、ゾロに歩み寄った。一歩、二歩、進むごとに、ゾロの眉頭が寄せられる。
「お約束のプレゼント、頂きに来ました♪」
「……ちっ。」
 明るい昼間なら頭に来る事この上ない舌打ちも、月光の下で赤く染まった顔で、であればむしろ愛おしくて仕方がない。サンジはますますにやける顔を今日は隠しもせずに、
「さ、倉庫……行こう?ゾロ。」
「…………ぉぅ。」
 小さな返事にも笑みを零して、その手を引いた。



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