オーブンの余熱をセットしてから、蒸かしてあった芋の皮を剥く。
 匂いに誘われた船長を蹴り飛ばしつつ、丁寧に裏ごししていく。
 普通ではない6人分(ルフィの分だ)を全て裏ごしし終わる頃には、サンジの額には汗が滲んでいた。
 調味料で味を調えながら、サンジは背中越しに声を掛けた。
「ウソップ!」
「何だ?ルフィは大人しくしてるじゃねーか。」
 もっともそれは、サンジが予め用意しておいた対ルフィ撃沈用イレギュラーおやつのお蔭であったが。
「いや、悪ぃんだけど、ちょっと窓開けてくんね?」
「はっ?!お前何言ってんだよ、外は雪だぞ!」
「俺はなぁ、レディたち(+お前等)のおやつ作りに忙しくて暑いんだよ。何ならストーブ止めるか?」
「おっ、仰せのままにっ!!」
 ヒュッ、と飛んできたご自慢の長い足にたちまち顔面蒼白となった狙撃手は、それでも最後の抵抗か、サンジの横の小窓だけを3センチほど開いて、即行でストーブの前に陣取った。

 そんな光景を、ゾロはいつもの昼寝スタイルのまま目だけを薄く開いて見ていた。……というよりも、サンジを、だ。
 くっきりと肩甲骨の浮き出た、意外と広い背中。ひらひらと忙しなく往復する白い手。時折横を向いたときに覗く、無意識であろう僅かな笑み。
 どこをどう見たって男で、そしてその一挙手一投足に鼓動が跳ねる。全くどうしたものか、と己を嘲ろうとしても、とっくに捕らわれた心には意味も無い。
 今日は皆、狭い狭いと嘆いていたけれど、ゾロにとってはサンジをとっくりと眺めていられる、滅多にない良い機会。

 やがて、空間の醸し出す温もりに包まれて、惜しい気持ちを抱えながらも、ゾロはゆらゆらと眠りに落ちていった。






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